目を大切にしよう。ラフカディオ・ハーンも祈った「目のお薬師さま」

目を大切にしよう。ラフカディオ・ハーンも祈った「目のお薬師さま」

島根県出雲市に、一畑薬師(いちばたやくし)というお寺があります。正式な名前は「一畑寺」というそうなのですが、「一畑寺のお薬師さま」という意味で「一畑薬師」という通称が広く親しまれています。古くから「目のお薬師さま」として信仰を集めてきた場所です。

私は、数年前の旅の途中で立ち寄ったこのお薬師さまをとても気に入り、その後もしばしば尋ねるようになりました。ここで販売されているほうじ茶にはまってしまい、現地で大人買いしたり、足りなくなれば通販でお取り寄せするほどになってしまいました。一畑薬師の本堂前や境内および周辺の「一畑」で栽培される特別なお茶だそうです。https://ichibata.jp/?page_id=1611

参拝の足として知られる「バタデン」こと一畑電車も、明治44年(1911)に一畑薬師のふもと(現在の一畑口駅)まで開通し、その名前は一畑薬師への参詣が目的だったことに由来しています。それだけ多くの人が、目の健康を願ってこの山を訪れていたのでしょう。

一畑電車の車窓から見える宍道湖

連続テレビ小説「ばけばけ」ドラマ館(松江市役所・R9.3.31まで)

ハーンも訪れた一畑薬師

この一畑薬師には、朝ドラ「ばけばけ」の登場人物・ヘブン先生のモデルとしておなじみの、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)も訪れています。

小泉八雲記念館によると、1890(明治23)年11月のある日曜日、ハーンは逗留していた富田旅館の女将と女中を連れて、一畑薬師に詣でました。目的は、目を患っていた女中・ノブ(朝ドラの劇中ではおウメさんでしたね)の回復を祈るためだったそうです。

ハーンは16歳のときの事故で左目の視力を失い、残った右目も近視だったと伝えられています。失明した片目は、ハーンにとって強いコンプレックスでもありました。『怪談』や『知られぬ日本の面影』など、あれほど細やかに日本の風景や人々を描いた作家が、実は目に大きな不自由を抱えていたのです。

だからこそ、ハーンは人一倍、目の健康に敏感でした。ノブをなかなか医者に診せない宿の主人に腹を立てて、宿を出てしまったという記録まで残っているそうです。目の不自由さを誰よりも知っていたハーンにとって、他人の目の病も、決して他人事ではなかったのだと思います。


現代人は、ハーンの時代よりずっと目を使っている

ひるがえって、現代の私たちはどうでしょうか。

他人の目の病にまで心を砕いたハーンが、もし今の私たちの暮らしを見たら、きっと驚いて、そして本気で心配したのではないでしょうか。朝起きてすぐスマホを見て、日中はパソコンに向かい、夜も寝る直前まで画面を眺める。ハーンの時代とは比べものにならないほど、私たちは目を使っています。

博報堂メディア環境研究所の「メディア定点調査2025」では、携帯電話・スマートフォンへの接触時間が1日平均165.1分、約2時間45分でした。しかも、これはスマホだけの数字です。子どもも例外ではありません。NTTドコモ モバイル社会研究所の調査では、1日平均のスマホ利用時間が小学生高学年で78分、中学生で145分に達しています。


世界の半分が近視になる時代

目の酷使は、数字にもはっきり表れています。

2016年に眼科学の専門誌『Ophthalmology』に掲載された研究では、2050年には世界人口の約半数、およそ50億人が近視になると予測されています。そのうち約10億人は、失明のリスクが高まる強度近視になる見込みだそうです。

日本の子どもたちの状況も深刻です。文部科学省が発表した2025年度の学校保健統計調査では、裸眼視力が1.0未満の割合が小学生36.07%、中学生59.35%、高校生71.51%でした。10年前と比べて小中高で5~7ポイントほど上がっており、文科省はスマートフォンや本を近い距離で使う機会が増えたことが背景にあるとみています。読書やスマホを使うときは、30センチ以上離すよう呼びかけています。

ハーンの時代には想像もできなかった勢いで、私たちの目は近くばかりを見続けているのです。


目は「替えがきかない」道具

私たちの仕事は、まさに画面と向き合う仕事です。デザインを確認し、コードを書き、お客様とやりとりをしていると、気づけば一日中モニターを見ています。

パソコンもメガネも買い替えられますが、目そのものは替えがききません。長く健康に暮らし、長く働き続けるためには、目を大切にするという考え方がもっと当たり前になっていいのではないかと思っています。

たとえば、こんな小さなことからでも始められます。

  • ときどき画面から目を離して、遠くを見る
  • 画面の明るさや文字の大きさを、無理のない設定にする
  • スマホや本は、顔から30センチ以上離す
  • 寝る前のスマホは少し控える
  • 見えにくさを感じたら、我慢せずに眼科で相談する

おわりに

目をいたわる時間をつくろう

偉そうなことを書きましたが、かくいう私も長年の近眼で、すっかりメガネがトレードマークとなっています。裸眼ではほとんど見えないため、メガネなしでは生活できないといっても過言ではありません。そのうえ仕事柄、一日の大半をモニターの前で過ごしています。だからこそ、「見える」ということのありがたさは身にしみています。

長く健康に暮らし、長く働き続けるために、目は替えのきかない大切な道具です。一畑薬師にお参りするのもよし、ときどき画面から目を離して遠くを眺めるのもよし。できることから、目をいたわる時間をつくってみてはいかがでしょうか。


参考

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